私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 12巻 (デジタル版ガンガンコミックスONLINE) 谷川ニコ
神か………?
「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」第12巻があまりにも素晴らしい出来だったので、感想記事を書きます。
続きを読むからどうぞ。
前巻までのあらすじ。
ガチでオススメなので、この漫画の内容と12巻までのあらすじを軽く振り返ります。
「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」(以下わたモテ)とは、ぼっちで喪女の主人公黒木智子の高校生活を描いた漫画で、2013年には橘田いずみさん主演でテレビアニメも放送されていたことが記憶に新しいですね。
とにかく主人公のぼっち描写があまりにもリアル過ぎて身に覚えのある読者の心を容赦なく抉ってくるのが特徴で、ひだまりPもアニメ以降はあんまり追ってませんでした。自分の過去のツイートを遡ってみたところ、第5巻で無理になって投げたというような事をつぶやいていましたね。
いやほんと、この辺りのわたモテに対するひだまりPの思いはほんと「本当にやめてくれ」ってな感じだったんですよね。単にぼっちとかコミュ障とかじゃなくて、捻くれた性格とか他者への劣等感から人と対等なコミュニケーションが取れなくて、自分より上と思った存在にはまともに話せなかったり、逆にマウントが取れると思った相手には徹底してナメた態度を取るとことか、見栄っ張りだからグループで群れてる連中を心の中で見下しつつも、自分は注目される存在でありたいという歪んだ欲求からTPOを考えない奇行に走り当然のように周りから奇異の目で見られる所とか、別にイジメられたり迫害を受けている訳ではないけど、友達の作り方が分からないから無駄に空回りして周りにそっぽ向かれたり、意味不明な人として避けられる、そういう陰キャの陰キャたるゆえんをリアルにやり過ぎて居たたまれなくなるんですよね。
特にそのキツさが如実に現れていたのがこの第5巻です。何がキツいって全部キツいけど、一番キツいのが自己紹介で面白い事言おうとして滑るくだり。本当に、本当にやめろ。
こんな風に空気感の演出がキツ過ぎて、所見は本当に言葉にならなかったのを覚えていますね。
もこっち(主人公)の高校入学からスタートしたこの物語、1年生のもこっちはクラスでも完全に空気となっており、学校で他者と会話する描写はほとんど無くステレオタイプ的なコミュ障描写が多数見られます。学園祭のエピソードなどは本当に目立たないぼっち故の苦悩が如実に描かれていてキツいエピソードの1つですね。
上記の5巻から2年生に進級し、先の自己紹介のやらかしもあってクラスの中で悪目立ちしてしまいます。一部の女子グループからは陰で「例のあの人」とヴォル○モート卿扱いに。体育会系クソ教師の存在などもあり、主に学校を舞台としてもこっちの苦悩は続きます。
そんなもこっちの学校生活に明確な変化が訪れるのが修学旅行編。当然友達などいないもこっちはクラスの余り物が集うグループに入れられ、班長をやらされる事に。旅行のはじめはいつも通り陰鬱としていたもこっちですが、何やかんやあって修学旅行パワーで班の子達とは友達に…なるまではいかないものの、存在はちゃんと認知して貰えてその後は一緒にお弁当を食べる仲になります。普通に友達ですね。
この修学旅行以降はクラスの面子との絡みも増え、学校でのもこっちは大体誰かと一緒にいるようになり何かあった時の話し相手もできるようになりました。ここまで来ると普通にただの大人しい女子グループの1人ですね。
最初は「これがわたモテ…?」と思ったりもしたんですが、クラスメイトのキャラクターも(あくまでもこっちを中心に)掘り下げられて話の幅も広がったと思います。ヤンキーっぽい子に舐めた事言ってシメられるもこっちやキョロ充にレズだと勘違いされて勝手に警戒されるもこっち等、ギャグセンスの秀逸さと「あぁ、こんな奴いるいる」とキャラを身近に感じさせてくれる表現力は健在です。
完全に作風が方向転換し、普通の地味な女子高生を中心とした青春群像劇にシフトします。それだけだと毒が抜けただけみたいですが、もこっちの捻くれた性根はあまり変わっていないなかで節々に成長が見て取れることから、初期から読んでいくとやはり「この調子で幸せになって欲しい」と思わせる所が凄いですね。
この第12巻は、もこっちの2年生編の終わりになっています。ここから12巻の内容に関して。
喪110 モテないし受験者を応援する
入試の手伝いに駆り出されたもこっちが、自分の高校入試の痛い行動を思い出して熱くなる回。
この手の黒歴史は大抵相手方は何とも思って無くて、ただただ本人の思い出の中にしこりとして残り続ける嫌なものですがこのパターンは逆で、もこっち本人は今の今まで忘れていた一方「うぇ~い」と寒いノリで話しかけられた両隣の子達はしっかり覚えていたということが後に判明します。後述しますが、これもやはり痛々しい行動ながら友達を作るためのもこっちの行動が時を経て実を結んでいることが分かりますね。
彼氏を差し置いて受かった後輩(もこっち曰く「クズ」)、今後はまたストーリーに絡んでくるんでしょうか。楽しみですね。
喪111 モテないし周回プレーする
「留年したら強くてニューゲームじゃね?」そんな誰もが抱く妄想回。
妄想の中でも元・クラスメイトを見かけたらサッと身を隠すくだりが入っているところに、もこっちならではのリアルさを感じますね。
喪112 モテないしバレンタインデーを送る①
バレンタイン回。放課後の家庭科室で友チョコ作るとかお前普通にリア充やんけ。しかしながらう○こ型のチョコやち○こ型のチョコを作り出すセンスは紛れもないもこっちですね。
喪113 モテないしバレンタインデーを送る②
ギャグ回。弟に惚れてる2人組のちんちんネタは鉄板だけど今回はオチが秀逸すぎて爆笑してしまった。
喪114 モテないしバレンタインデーを送る③
神回。
うっちーほんと好き。
ほんっっっと好き。
最後の2コマのテンポ良すぎでしょ。天才だと思いますね。
地味に吉田さん(ヤンキー)の分はウンコ型のまま机に突っ込んでキレられてるのに、他の人のはウンコだと分からないように刻んで渡してるの面白いですね。ここもですけど、この漫画はこういう「同じ友達の中でも、相手によって態度や行動を変える」という表現がもこっちに限らず多くて、それが多くの場合に笑いを生んでますし、そういうのが凄く等身大でキャラを身近に感じられますね。
喪115 モテないし二年目の卒業式
ガチ神回。さっきまでウンコだのちんちんだの言ってたのと同じ漫画とはとうてい思えない神回。
もこっちが1年時、クラスに馴染めずぼっちで過ごした文化祭の準備で出会い、その後も体育会系クソ教師から庇ってくれたり、もこっちの挙動不審な態度にも嫌悪感を示すことなく優しくいつも気にかけてくれたぐう聖先輩(今江恵美)の卒業式。
わたモテ屈指の名シーン。
何に気づくのが遅かったのかは、お手元のコミックスを確認して下さいね。
先輩との最後のやりとりから過去にぼっちで過ごしていた自分に先輩がしてくれた「あること」に気が付いたもこっち。普段は他人の粗探しばかりして己を顧みないもこっちがこのときばかりは自分の独りよがりに恥じ入り、肩を震わせて泣いてしまいます。「何も成長していない」と言うもこっちでしたが、ここでは自分が先輩のように誰かに何かをしてあげる存在になりたいと少しでも考えているところにはしっかりとした成長が見て取れますね。
このエピソードを通して思ったのは、単にこの先輩がぐう聖だから、もこっちも救われたね…という話だけではないんですよね。さっきちらっと言及した入試のエピソードもそうですが、やっぱりもこっちの不器用な「行動の結果」が、ここにきてちゃんと本人に帰ってきていると感じましたね。
思えば先輩との出会いはもこっちが一年の時、クラスの出し物の準備を体よく厄介払いされてヒマを持て余したもこっちが講堂の準備手伝いに参加したことがきっかけでした。手をケガして、そのまま帰っても良かったところ元来の生真面目さも手伝ってか、気まぐれにボランティアに参加してみたことで先輩との出会いがあったんですね。
これは文化祭本番でも同じで、実はその他の色んなことでも、もこっちは常に何かしら、行動はしていたわけですよ。それはまぁ都合の良い期待や不純な動機からだったり、行動してみればひどく歪で不器用だったり痛々しくもあって、その結果誰かに嘲笑されたり傷ついたりすることもあったけれども。けれどもその奥に小さくも確かにあった「友達がほしい」という純粋な思いを、見つけてくれた人がいたんだなぁ、と。
あれ、これ何の漫画だっけ?「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」じゃなかったっけ?これこんな漫画だっけ?もっとこうリアル過ぎるぼっち描写で俺らの心を抉りに来るだけのギャグ漫画じゃなかったの??いつからこんな…もこっちの幸せを願うハートフルな漫画になったの??
まぁでも、そうですね。アニメとかの時点の「リアル過ぎるぼっち漫画」としてのわたモテしか知らない人は、是非この12巻までの全巻を読んで欲しい。こんなブログは読まなくていいから、まずわたモテを読んでくれ。
喪116 モテないし二年目の卒業式(裏側)
またこのほっこりやめろや。うっちーだけが救い。
喪117 モテないし2年生の終わり
うっちー回。うっちーのもこっちに対する歪んだ執着がまたも露見するうっちーよくばりセット。
喪118 モテないしオラつく
秀逸なギャグ回。もこっちの事など路傍の石ころのようにしか思っていなかったパイナップル(本名不明)が、いきなりもこっちのクズな本性に触れて戸惑う姿が最高に笑いを誘う。
ステレオタイプなヤンキーをなんとなく下に見るのはオタクあるあるですね。もこっちが吉田に舐め腐った態度とってシメられる流れ大好きですね。
喪119 モテないし打ち上げに行く
1年のクリスマス会は集合場所まで行って誰にも声を掛けられずそのまま1人で時間つぶして帰ってくるという、2ちゃんのコピペみたいなクリスマスを過ごしたもこっち。
そんなもこっちにも今ではクラス会に一緒に参加しようと誘ってくれる友達がいます。まだクラスの輪に溶け込んでいるとは言えないけれど、お母さんに「遅くなるかも」と電話するもこっちの心の中を思うと胸がいっぱいになりましたね。あれ?これ何の漫画だっけ??
喪120 モテないし打ち上げる
うっちー好き。
焼肉屋ではもこっちもクラスの良く言えばマスコット、悪く言えば珍獣的存在として珍重されるようになったことが分かります。しかしながら二次会には参加せずに帰路に着こうとすると、そこにはいつもクラスで一緒にいる面子(ゆり、真子、吉田)が。ここでは「クラス」という集合と、その中での少人数の「友達」というグループの対比が描かれます。これ大事ですよ。
もこっちにとって今や「親友」に類する存在となったこの3人が、振り返ってみればきっかけは(真子以外)修学旅行の班分けでたまたま一緒になっただけというのが良きですね。うっちー……
喪121 モテないし父親と出かける
春休みヒマなもこっちが気まぐれに父親の釣りに着いていく回。
ゆうちゃんには父親が釣った綺麗な魚の写真を送り、ゆりや真子とのLINEには自分で釣ったグズグズの魚の写真を送るところにもこっちのキャラが色濃く現れていますね。
喪122 モテないし3年生になる
神回。
うっちーほんと好き。もこっちも「クラス替えごときで騒ぎすぎだろ…」と斜に構えた態度を取ってはいますが、普段の友人たちは勿論のこと少数ではありますが(絵が描ける安藤等)男子も含めた面識のある人物が多数見られたことでいつの間にか多くの人達と何らかしらのコミュニケーションを取っていたことが分かります。
この回のキーパーソンネモこと根元陽菜。2年の時も悪気なくもこっちを焚き付けて自己紹介でだだ滑りさせた彼女は、3度目の過ちはすまいと無難に自己紹介を終えようとするもこっちに「黒木さんも普通の子になったんだねー…」と、ポツリ。
(なんだそのつまんなそうな顔!!
ふざけんな!いつだってつまらないのは
リア充(おまえら)だろ!
いつだって空気読んで空気読んだ発言と
ウケしか狙わんくせに!!
お前らと違ってこっちはほぼ2年間
ぼっちでお前らを見下しながら生きてんだーー
なめんな!!)
もこっち、かっけぇ…本当かっけぇ…このセリフだけ橘田いずみさんにまた読んで欲しい…
そう、それでこそもこっちですよ。この劣等感こじらせて創り上げられた歪なプライド。これがなきゃ陰キャじゃない。
こうして「彼氏募集中です」などと痛い発言でまたも場を凍らせたもこっち。しかし動じず「(お前みたいに本性偽って仲間同士でぬるく生きてきた人間には無理だろ?)」とネモに対し勝ち誇って見せます。そしてそのネモが、自分の自己紹介で。
「根元陽菜です。声優目指してます」
神回ーーー
これまでアニメ好きや声優志望の夢を(もこっちには知られていたが)学校では絶対に出さないようにし、もこっちに言わせれば「本性偽って」「空気読んで」「仲間通しでぬるく」リア充として過ごしてきたネモ。ある種もこっちと正反対の存在であった彼女が、もこっちの孤高に自分を貫く態度に感化されてクラスの自己紹介という場で声優の夢をカミングアウトします。
……なにそれ?神回か?
わたモテってそんな深い漫画だったんだ…
これもやっぱり、もこっちの行動が周りに影響を与えていくエピソードの中の一つであり、そしてもこっちが仲間通しで空気読んでぬるく生きていると内心見下していたネモは、そのもこっちの想像を超えてきます。
もこっちが静かに秘めている自分を曲げない挟持が時に誰かの心を動かすこともあるし、当然もこっちが考えているほど周囲の人間だって、何も考えずに生きているわけではないということで。そんなよくできた青春群像劇です。
と、いうわけでまとめです。
まとめというか、わたモテ12巻マジで神だったのでみんな読んでくれというだけの記事ですねこれ。マジで。でも12巻だけ読んでも登場人物分からないからできれば最低でも修学旅行編が始まる8巻から買おう。オーケイ?オーケイ。
それでは!